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車両を資金化する前に:法人の「リースバック」適否判定ガイド(トラック事業者向け)

車両を資金化する前に:法人の「リースバック」適否判定ガイド(トラック事業者向け)

「燃料費の高騰が止まらない…」

「来月の支払いまでに、まとまった資金がどうしても必要だ」

「急な車両の故障で、予定外の出費が…」

運送業を営む経営者の皆様にとって、資金繰りの悩みは尽きないことでしょう。日々の業務に不可欠なトラックやトレーラーは会社の貴重な資産ですが、同時にその維持費は経営を圧迫する要因にもなり得ます。

銀行融資は時間がかかり、審査も厳しい。そんな時、事業を止めることなく、今ある資産を有効活用して運転資金を生み出す方法はないだろうか。

その有力な選択肢となるのが、トラックの**「リースバック」**です。

これは、現在所有している車両を専門会社に一旦売却し、同時にリース契約を結ぶことで、売却後もそのまま同じ車両を使い続けられる画期的な資金調達手法です。

しかし、その手軽さの裏には、コストや契約内容に関する重要な注意点も潜んでいます。安易に飛びついて後悔しないためにも、その仕組みとリスクを正しく理解することが不可欠です。

この記事では、運送事業者の皆様が自社の状況に照らし合わせ、「本当にリースバックが最適な選択なのか?」を冷静に判断できるよう、その基本構造からコスト比較、契約上の落とし穴までを徹底的に解説する**「適否判定ガイド」**をお届けします。


リースバックの基本構造:売却→賃貸借の流れと税務・会計インパクト

車両リースバックの仕組みは、一見複雑に思えるかもしれませんが、流れは非常にシンプルです。

1. 【売却】 まず、自社が所有しているトラックやトレーラーを、リースバックを扱う専門会社に売却します。査定が行われ、合意した金額が売却代金として一括で入金されます。これにより、会社はまとまった現金を手にすることができます。

2. 【賃貸借】 次に、売却したその車両について、リースバック会社とリース契約(賃貸借契約)を締結します。

3. 【継続使用】 契約に基づき、毎月定額のリース料を支払いながら、これまでと全く同じようにその車両を事業で使い続けます。

つまり、車両の**「所有権」だけがリースバック会社に移転し、日々の業務で使う「使用権」は自社に残る**、という仕組みです。

この取引は、会社の財務にも変化をもたらします。

まず会計上では、会社の貸借対照表(バランスシート)から車両という「固定資産」が消え、その分の「現金(流動資産)」が増加します。これにより、総資産を圧縮しながら自己資本比率や総資産利益率(ROA)といった財務指標が改善する、いわゆる**「オフバランス化」の効果**が期待できます。

税務上では、車両の売却によって帳簿価額を上回る額で売れた場合、その差額(売却益)は法人税の課税対象となります。逆に、帳簿価額より安く売れた場合は売却損となり、他の利益と相殺することで節税につながるケースもあります。

また、これまでは減価償却費や自動車税、保険料などを個別に経費として計上していましたが、リースバック後はこれらが一本化された**「リース料」として全額を経費処理**できるため、経費管理が簡素化されるというメリットもあります。


適否を分ける判断軸:車齢・走行距離・車検残・特装の有無と評価額

リースバックを利用できるかどうか、そして、いくらの資金を調達できるかは、対象となる車両の「評価額」によって決まります。リースバック会社は、中古車市場での価値を基準に厳しく査定します。自社のトラックが有利な条件を引き出せるか、以下の判断軸でチェックしてみましょう。

車齢・走行距離:

中古車市場の原則通り、年式が新しく、走行距離が少ないほど評価は高くなります。ただし、乗用車と異なり、日々の業務で長距離を走る事業用トラックの場合、単なる走行距離の数字よりも、定期的なメンテナンス履歴が明確であるかがより重視される傾向にあります。整備記録簿などがしっかり残っていれば、多少走行距離が多くても高い評価を得られる可能性があります。

車検の残り期間:

車検が長く残っている車両は、リースバック会社にとって当面のコスト負担が少ないため、査定額にプラスに働きます。逆に、車検切れが間近に迫っている車両は、その分の費用が差し引かれるか、場合によってはリースバックの対象外となることもあります。

特装の有無と汎用性:

クレーン付きのユニック車、冷凍冷蔵車、タンクローリーといった「特装車」は、特定の業務に不可欠であり、中古市場でも専門的な需要があるため、高額査定が期待できるケースが多くあります。

しかし注意したいのは、あまりに特殊でニッチな架装が施されている場合、買い手が見つかりにくいため「汎用性がない」と判断され、かえって評価が低くなる可能性もある点です。一般的な平ボディやウィング車などは、幅広い用途で使えるため、安定した評価を得やすいと言えます。

車両のコンディション:

言うまでもありませんが、事故歴や修復歴の有無、エンジンやミッションといった基幹部分の状態、フレームの錆や腐食、キャビンや荷台の傷・凹みなどは、評価額を大きく左右します。日頃から丁寧な運転と適切なメンテナンスを心がけることが、いざという時の資産価値を守ることにつながります。


コスト比較:リース料総額 vs 既存ローン残高・維持費・減価償却の損益影響

リースバックは迅速に資金を調達できるメリットがありますが、その利便性と引き換えに、トータルコストでは割高になるのが一般的です。目先の入金額に惑わされず、本当に自社にとって経済合理性があるのかを冷静に比較検討する必要があります。

まず、リースバックにかかる総コストを把握しましょう。

これは単純に**「月額リース料 × 契約月数」**で計算できます。このリース料には、車両の売却価格に加え、リース会社の利益、固定資産税、保険料、そして実質的な金利に相当する費用が含まれていることを理解しておく必要があります。

次に、車両をそのまま所有し続けた場合の総コストを算出します。

比較すべき項目は以下の通りです。

  • ローン残高: 車両のローンが残っている場合、その返済総額が比較のベースとなります。リースバックで得た資金でローンを完済することを想定します。
  • 将来の維持費: リース期間中に発生するであろう自動車税、重量税、自賠責保険料、そして車検費用や定期的なメンテナンス費用を概算します。
  • 減価償却費の機会損失: 車両を所有していれば、会計上、減価償却費を経費として計上できます。これにより課税対象となる利益が圧縮され、法人税の節税効果が生まれます。リースバックを行うと、この減価償却というメリットを手放すことになります。

最終的な判断は、**「リース料の支払総額」「(ローン残債+将来の維持費)- 減価償却による節税効果」**を比較して行います。

多くの場合、前者のリース料総額の方が高くなります。その差額が、事業を継続するために「今、現金を確保する」という価値に見合うものであるかどうか。この点を経営者自身が冷静に見極めることが、後悔しないための鍵となります。


事故・故障・名義・保険の落とし穴:稼働率低下時の条項と違約金

リースバック契約は、一度結ぶと簡単にやめることができません。そのため、契約書にサインする前に、万が一の事態に備えた条項を隅々まで確認し、潜んでいるリスクを完全に理解しておく必要があります。特に以下の点には注意してください。

名義変更と許認可:

リースバックを実行すると、車検証上の「所有者」および「使用者」の名義はリース会社に変更されます。これにより、管轄の運輸支局へ運送事業用の増減車に関する手続きが必要になる場合があります。手続きを怠ると行政処分の対象となる可能性もあるため、事前に確認が必須です。

事故・故障時の費用負担:

車両の所有者はリース会社になりますが、使用・管理上の責任はこれまで通り自社にあります。つまり、事故を起こした際の修理費用や、故障した場合のメンテナンス費用は、原則として全て自社の負担となります。車両が使えず仕事ができない期間であっても、リース料の支払いは免除されないのが一般的です。万が一、全損事故を起こした場合は、リース契約は強制的に解約となり、後述する高額な違約金(規定損害金)を請求されるリスクがあります。

自動車保険の契約:

車両の名義が変わるため、自動車保険(任意保険)の契約内容も見直す必要があります。多くの場合、リース会社が指定する十分な補償内容の保険に加入することが契約の条件となります。保険契約者が誰になるのか、保険料の支払いはどうなるのかを明確にしておきましょう。

中途解約の厳しさ:

リース契約における最大の落とし穴が、**「原則、中途解約はできない」**という点です。もし会社の業績が悪化し、リース料の支払いが困難になったとしても、一方的に解約することはできません。仮に解約が認められたとしても、残りの期間のリース料全額に相当する、非常に高額な違約金を請求されるのが通例です。このリスクを十分に認識した上で、無理のない支払い計画であるかを慎重に判断してください。


提案・見積もりチェック表:買取価格、残価、金利相当、中途解約条件の確認項目

複数のリースバック会社から提案や見積もりを取ることは、有利な条件を引き出すための鉄則です。しかし、各社の書式や条件は様々で、どこを比較すれば良いか分かりにくいものです。以下のチェックリストを活用し、担当者に一つひとつ質問しながら、契約内容を正確に把握しましょう。

□ 1. 買取価格は妥当か?

  • 提示された車両の買取価格は、中古車市場の相場と比べて著しく低くないか?
  • 複数の買取専門業者などにも査定を依頼し、相場観を掴んでおくことをお勧めします。

□ 2. 月額リース料の内訳は明確か?

  • 月々のリース料は、どのような根拠で算出されているのか?
  • リース料に含まれる「実質的な金利(リース料率)」は何パーセント程度になるのか? 総支払額から逆算して確認しましょう。

□ 3. 契約期間と満了時の扱いはどうなるか?

  • リース契約の期間は何年か?
  • 契約期間が満了した後、車両はどうなるのか?
    • 再リースは可能か? その場合のリース料は?
    • 買い戻しの選択肢はあるか? その場合の買取価格は?
    • 返却するだけで良いのか?

□ 4. 残価設定の有無とリスクは?

  • 契約満了時の車両価値をあらかじめ設定する「残価設定」はされているか?
  • 残価設定がある場合、満了時の車両査定額が設定残価を下回った際に、差額を支払う(追い金を請求される)義務はあるか?

□ 5. 維持費の負担範囲は明確か?

  • 自動車税、重量税、車検費用はリース料に含まれているか?(メンテナンスリースか、ファイナンス・リースか)
  • 故障や事故時の修理費用は、どちらの負担になるか?

□ 6. 【最重要】中途解約の条件は?

  • 契約期間の途中で解約する場合、違約金(規定損害金)はいくら発生するのか?
  • その計算方法は契約書に具体的に明記されているか?

このリストを元に冷静に比較検討することで、一見お得に見える提案に潜むリスクを見抜き、自社にとって真に有益な契約を選択することができるはずです。